米国のECの動向について |
米国で日米企業間の橋渡し役としてコンサルタントをしておられる有元美津世さんに米国のEC動向をお聞きします。
有元さんは、南カリフォルニアを拠点に、日米企業間の技術譲渡、ハイテク分野におけるパートナー(提携先)探しや市場調査、異文化間マネジメントに従事しておられます。米国のニュービジネスの動向などビジネス雑誌での連載も多数、著書に、「ザ・海外就職」「英文履歴書の書き方」など多数。
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まず、ECの定義ですが、まだいろいろあってスッキリしない、という感じがします。米国政府のECに関してのコンセプトでは、まず第一に、大企業はもちろん小企業や個人でも利用できる「社会システム」としてECを位置づけているという意見があります。が、日本では「企業と消費者間の電子的取引」「企業間のオープンEDI」、特に前者に力点が置かれているような印象を受けます。米国では一般的に「EC」とはどのようにとらえられているのでしょうか?◇有元◆
アメリカでも同じだと思います。一般的に「企業と消費者間の電子 的取引」「企業間のオープンEDI」ととらえられてきたのですが、そうした電子的取引が、当初考えられていたように、なかなか花開かず、失望感もあり、最近、そうした見方に批判的な声が出てきています。「実は、ECというのはそうした狭義のものではない。単に、企業が消費者に対してインターネット上でモノやサービスを販売するというのではなく、情報収集から顧客サービスを含め、企業と消費者が、また企業同士が、現実社会と同じように、様々な形で接しながら商業活動を行うことである」という意見です。
皆、インターネットは、結局、「電話やファックスと同じビジネスツール、コミュニケーションツールである」ということに気づき始めたとも言えます。
誰も、「電話だけでいくら儲けた」「ファックスだけで利益を出さないといけない」とは考えないですよね。「インターネットだけで儲ける」という考え方が間違いだったという反省が生まれ、インターネットを既存のビジネスにいかに組み込んでいくかに重点が置かれ始めたと思います。インターネットが、ポツンと単体で存在するわけではないですから。
また、これまであまりにも強調されすぎた「インターネット=収益を上げるシステム」という考えから、マーケティングツール、コスト削減手段、新しい流通システムとしてのインターネットの機能が見直されつつあります。イントラネットやエクストラネットが伸びているのも、こうした背景からです。
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前の質問と矛盾するようですが、全米では9,000紙もの新聞が発行されているが、トップ25紙で販売部数総数の88%を占めており、ビッグ・ブランドの4紙が広告収入と販売部数の過半数を占めている。雑誌においてもしかり、年間2億ドル以上の広告収入があるのは31誌で、大手のタイムが、広告市場全体の約3分の1を支配し、全国TVネットワーク界でも、ケーブル・チャンネルの世界でも、限られた数の企業がパイの過半を制しているという現実があります。EC化がその寡占を崩すのか?という期待もありましたが(個人的に)、現在、ISPはAOLが単独トップといった具合にかえって独占、集中を強める(「強いものはより強くなり、弱いものはより弱くなる」)傾向にあるのではないかという懸念もあるのですが、いかがでしょうか?結局、ネットワークの世界もブランドが大きく物を言う、現実世界と陸続きということでしょうか。◇有元◆
インターネットの世界でも、ブランドが非常に大事で、そうなると、やはり既存のブランドは強かった、という感が広まっていますね。
業界によっては、ネット上のスタートアップが主要プレーヤーに成り得る時期は過ぎたという見方もあります。かなりうまくニッチを狙ったものか、大企業と提携しない限り、ネット上に進出した大企業に買収されるか、つぶれる運命にあると。実際、大手証券会社のディーン・ウィッターがロンバードを購入したり、スポーツラインUSAは、先手を打って、CBSスポーツと組んだりということが次々に起こっています。旅行業界やゲーム業界でも、既存の大企業が進出した後、淘汰が起こって、結局は、現実社会と同じような業界図が描かれると考えられています。(現在、オンライン旅行サイトの44%が売上の 81%を占め、寡占度は、これから強まると見られています)
バーチャルのベンチャーが、ブランド構築、市場獲得に奮闘している間に、大企業は最新のテクノロジーを購入してネット上に進出できますから。バーチャル企業は、ネット上での売上がすべてですが、既存の企業の場合、ネット上で儲からなくても、現実世界での売上がありますから、バーチャル企業は、なかなか対抗できませんよね。
そもそも、「仮想社会が現実社会と別に存在する」という考えが間違っていたのであって、「仮想社会は現実社会の延長である」ということが再認識され、これからは、現実社会を無視して、仮想社会に生きるのではなく、仮想社会をどのように現実社会に組み込んでいくか(つまり、インターネットをどう現実社会のビジネス戦略に取り組んでいくか)が、鍵になると思います。<3>
EC化の企業ビジネスへのインパクトが指摘され、ECは企業にとっての単なる情報伝達や業務の効率化ばかりでなく、特定の業界にとってはビジネスの質が変化して構造変化をもたらし業界全体の空洞化さえ引き起こすと言われています。EC化により影響を受けるビジネスとしてこれまで多くのものが列挙されてきましたが、業界としてその恩恵を最も受けたものとしては何を挙げられますか?そして最大の被害者も。◇有元◆
これは非常に難しい質問です。
(現実社会でビジネスをしている)スモールビジネスは恩恵を受けたと思いますよ。たとえば、小売店やレストランなんかは、これまで主に地元の住人にしか販売できませんでしたが、今では、全国、世界中の人を相手に商売できるわけですから。ピーナッツ製品を世界中に販売するバージニア州のレストラン(日本はいいお得意さんだそうです)や、売上の4分の1をオンラインで販売するカリフォルニアの小さなソース屋などの成功例があります。
被害者と言えるかどうかはわかりませんが(同じ業界で"勝者"と"敗者"が存在するので)、業界構造が大きく変わるという意味では、自動車業界、旅行業界、金融(証券)業界が挙げられると思います。まず、自動車業界では、インターネットビジネスの出現により、自動車の販売形態、業界構造に大変革が起きています。
Auto−by−Telでは、全米のディーラー2,000店と組み、消費者がオンラインで送る購入希望書を最寄りのディーラーに送り、ディーラーは、1〜2日以内に消費者に連絡し、固定価格を提示するというシステムを構築しました。従来の自動車販売では、各ディーラーのセールスマンが歩合制で車を販売し、価格はセールスマンと消費者との交渉(駆け引き)によって決まります。メーカーがディーラーを乱立させたこともあり、セールスマン間、ディーラー間の競争が激しく、車を売るためには、セールスマン何でもする、という感じだったのです。
(私は日本では車を買ったことがないので、日本のディーラーがどんな感じか知らないのですが、アメリカで車を買うというのは、皆が嫌がる非常に不愉快な体験なのです。あの車を売るためなら、嘘でも何でもつく海千山千の自動車セールスマンに接しないといけないと思うだけで、ゾッとするのです。しかし、アメリカの場合、車は必需品で、なしでは生きていけないので、これを避けて通るわけにはいかなかったのです)
消費者に対するサービスは無料で、会員になるディーラーから年会費・月会費を徴収します。このシステムでは、ディーラーは、セールスマンを固定給で雇えるわけで、今までの脅迫まがいの売り方ではなく、もっとソフトな売り方が可能になります。
消費者にすれば、今までより低価格で、不愉快な(ヤクザまがいの)セールスマンと化かし合いのような価格交渉をすることなく、快適に車の購入ができるというわけです。
一方ディーラー側では、インターネットを利用することにより、経費の63%を占めるといわれる広告費と人件費が大幅に削減できます。
Auto−by−Telの会員ディーラーには、70%のコスト減で、40%の売上増を達成したところもあります。
Auto−by−Telによる価格破壊によって、インターネットに参加していないディーラーもコスト削減を迫られますから、これから生き残れないディーラーが続出するのではないでしょうか。2005年には、全米のディーラー数は今の半分になると予測するアナリストもいます。
Auto−by−Telでは、金融機関や保険会社、リース会社とも提携しており、こうした業界構造変革によって損をするのは、その他の金融機関や保険会社、ディーラーの何面にもわたる広告を載せてきた新聞(自動車広告は、広告収入の10分の1近くを占める)、そして歩合制のセールスマンたちといえます。
また、旅行業界では、消費者が、航空界社やホテルに直接予約できるようになるのですから、それでなくともコミッションを減らされて大変な旅行代理店はこれから生き残れないのではないですか(反面、TravelocityやPreview Travelなどのオンラインビジネスがチャンスを得ました)。オンライン旅行部門の全体の売上は、96年に2.76億ドル、今年、8.27億ドルに達すると予想されています。<4>
一般に日本では、EC=インターネット・ショッピング・モール/電子マネー的な理解が一部あるような気がします。それほど、ショッピング・モールに対する期待が高いということだと思いますが、米国ではIBMが自社運営サイトを閉鎖しておりますが、その一方でショッピング・モールを運営して成功している企業をご紹介いただけませんでしょうか?できればその秘訣も。◇有元◆ 成功している例はないのではないでしょうか。
これは、「仮想社会が現実社会に置き換わる」というのが幻想だったといういい例かもしれません。消費者は、オンラインでは、現実社会でのような買物の仕方をしない、行動パターンが違うということでしょうね。多くの消費者が、ネット上で商品情報を入手し、実際の購入は店頭や電話で行なっていますが、ということは、多くの人は、「○○がほしい」「○○について資料がほしい」という目的意識を持って目的のサイトに行くのではないでしょうか。「暇だからウィンドウショッピングでも」という感じで、オンラインモールをブラブラするという人は、少ないような気がします。
インターネット上で成功する最大の秘訣は、価格が安いだけではなく、「value proposition」を提供すること、つまり、ネット上でしか得られない特別な価値を提供することなのですが、オンラインモールは、それができなかったのですね。Amazon.comやOnsale(在庫処分のコンピュータ製品を競売形式で販売)など、成功しているサイトは、「value proposition」の提供に成功しています。<5>
先程シナジー効果と申し上げましたが、オンライン市場ではたった1つの有力な収入源は存在せず、様々なオンオフ・メディアとの組み合わせにより、それぞれが効果を与え合っていくつかの収入源が補完しあって、ビジネスとして帳尻が合うという見方もありますが、これについてはいかがでしょう?◇有元◆
<1>と<3>でお話ししましたが、まったくその通りだと思いま す。特に、インターネット上で販売するというより、インターネットで商品情報を流すというマーケティング媒体としての機能が見直されていると思います。
また、先に紹介したAuto−by−Telは、インターネットビジネスとして初めてスーパーボールで広告を出しましたが(売上500万ドル、利益ゼロで、30秒120万ドルの広告スポットを購入。Amazon.comも、ラジオや紙媒体でかなりの広告費を使っています)、しっかりしたブランドを築くには、既存の媒体も利用しなければならない。インターネットビジネスだからといって、100%ネット上だけでは生きられないのですね。ネット上で誕生したビジネスは、反対に、仮想社会から現実社会にも何らかの形で進出しなければ生き残れないといえるのではないでしょうか。
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