米国におけるDSLサービスの展開 ユーザの視点から


 先日、ロサンジェルスで開かれたインターネット従事者協会の集まりに参加した際、会場で知り合ったプロバイダから宣伝パンフレットを受け取った。家に帰って読んでみると、DSL(Digital Subscriber Line)サービスの案内だった。インターネットのアカウント込みで月に$60とある。利用しているISPもつい先日から南カリフォルニアでDSLサービスを開始したが、月々149ドル、その上設置と装置に何百ドルもかかる。

早速、同社のホームページを訪問したところ、私の住む地域では7月からサービス開始とのこと。しかし、問い合わせたところ、この地域ではサービスはまだ開始されていないという返事だった。地域電話会社のパシフィックベルによると、カリフォルニアでは、DSLサービスはまずシリコンバレーから開始され、今夏終わりまでには南カリフォルニアでも開始される予定ということだ。

DSLとは、既存の電話回線(銅線)を利用したポイント・トゥ・ポイントのデジタル回路で、常時接続状態(つまり専用線扱い)で使える。新たに電話線を増やす必要はなく、データ送信と音声通話が同時に行なえる。回線を引き直したりする必要はなく、ユーザにとっても、電話会社・プロバイダにとっても導入が容易である。

DSLの速度は、ISDNに比べ最高10倍、28.8Kbpsモデムに比べ最高50倍といわれている。また、ISDNのように従量制ではなく固定料金である。個々のユーザのニーズに合わせ、いろいろなスピードが選べるというのもDSLの利点だ。速いスピードに変えたければ電話一本で変更でき、新たな設置やハード変更などは必要ない。また、近隣世帯とネットワークを共有するケーブルとは違いセキュアである。企業のリモートLANアクセスにも利用でき、在宅勤務者を含むSOHO市場に適したソリューションだ。

 

アナログダイヤルアップ

ISDN

DSL

下りスピード

28.8Kbps

128Kbps

最高1.5Mbps

2MBの画像ダウンロード時間

70秒 

17

1

16MBの画像ダウンロード時間

9分

2.4

11

短いビデオのダウンロード時間

41

10

48

DSLの種類

ADSL(Asymmetrical Digital Subscriber Line) :  非対称型、上り128Kbps~1Mbps 下り8Mbps

SDSL(Symmetrical Digital Subscriber Line) : 対称型、上り、下りとも144Kbps〜1.5Mbps

HDSL(High-bit-rate Digital Subscriber Line) : T1に利用。上り、下りとも1.5Mbps

VDSL (Very high-bit-rate Digital Subscriber Line) : 上り1.5Mbps~2.3Mbps, 下り13Mbps~52Mbps

RADSL(Rate Adaptive Asymmetrical Digital Subscriber Line) :プロバイダがアプリケーションに応じスピード調節可

非対称型のASDLは、もともと電話会社がケーブル会社に対抗しビデオ・オン・デマンドを提供するためのものだったが、上りより下り方向(ダウンロード)の需要が高い個人ユーザに適している。対称型のSDSLは、双方向で高バンド幅が必要なウエブホストサービスなどに向いている。

パシフィックベルの場合、個人ユーザを対象にした「ホームパック」は月89ドル(ADSL接続59ドル+インターネットサービス30ドル)から。ビジネスユーザ向け「インターネットアクセスパック」は月々199ドル(双方向384Kbps)からと、月々339ドル(下り1.5Mbps、上り384Kbps)の2種類がある。この他に125ドルの設置費とADSL装置費が必要である。

昨年から大々的にDSLサービスを展開している西部・中西部の地域電話会社、USウエストでは、個人向けサービスは月40ドル。インターネットのアカウントやウエブスペース込みのパックは月$60ドル。

月々60ドルでISDNよりも速い通信が可能--こんなうまい話があるのか?実は、DSLサービスを受けるにはさまざまな条件を満たさなければならないのだ。まず、自分の住む地域の中央局がDSLサービスを提供していること、次にその中央局からの距離が16000(〜22000)フィート以下であること。パシフィックベルによると、この条件を満たす加入者は各中央局の60-65%、USウエストでは40%と見ている。電話会社は公けにしていないが、上記の条件以外にも、DLC(Digital Loop Carrier)システム上(つまりここ数年のうちに敷かれた新しい回線)では使えない(USウエストではその解決策を試験中らしいが)、銅線が物理的に劣化している場合も使えないなど、誰でも使えるのではないようだ。たとえば電話会社の宣伝を見て申し込んだ加入者が、70年前に敷設された古い回線のためDSLが使えず、話がちがうと電話会社ともめるというケースも生じている。

USウエストの場合、シスコやデルと組み、インターネットアクセスをコンピューターにバンドルする予定である。シスコのADSLモデムをデルのコンピュータに搭載し、USウエストのADSLサービス利用者に提供するというものだ。やはり地域電話会社のアメリテックは、コンパックやマイクロソフトと組んで同様のバンドルサービスを予定している。アナログモデムと同じ要領で、手軽にADSLモデムを搭載したコンピューターが買えればユーザにとってはうれしいことだが、問題は、現時点でDSLに関する標準がなく、各メーカーのPCやモデムがプロバイダの装置と互換性があるとは限らないという点だ。そこでコンパック、インテル、マイクロソフト、3Com、電話会社などから成るコンソーシャム、Universal ADSL Working Group(UAWG)が、標準の設定に取り組んでいる。ユニバーサルADSLでは、DSLライト(フルスケールのADSLと違い、DSLスペクトラムから音声帯域を分けるスプリッタを必要とせず、モデムチップセットに搭載。モデムを既存の電話ジャックに接続するだけで利用可)を推しているが、この標準を満たしたモデムは99年まで登場しないということだ。

DSL推進者は、口をそろえて「ISDNは死に絶えた」という。が、実際にはISDNの利用者は増えているのだ。AT&Tでは今年第一四半期に月35000回線を加え、最高新記録を達成し、今後4年間、このペースが続くと見ている。電話会社によっては個人向けであれば月30ドル(プラス利用料金)と、料金がかなり下がってきているのに加え、各電話会社は2〜3年の長期契約をすれば設置料を無料にしたり、ハードを込みにするなどプロモーションを行なっている。また、各電話会社は、必要な帯域幅に応じチャンネルを使い分ける常時接続・ダイナミックISDN(AO/DI)を提供し始めている。たとえDSLが普及しても、距離や回線の制約で利用できない人たちには、ISDNは魅力的な(または唯一の)オプションとして残るだろう。

当面、ISDN利用者がASDLサービスの一番のターゲットになるだろうが、広バンド市場全体が大きくなるため、電話会社はシェアの食い合いの心配はしていないようだ。加入者がISDN、ASDLのどちらを選ぼうが、長期的には、電話会社にとって売上増につながる。サービスの選択肢が増えるということは、マーケティング、顧客サービスにおいてもプラスである。

ちなみに光ファイバーの敷設に専念してきた日本の電話会社は、DSLには興味がないらしい。しかし、銅線の私設網を持った企業、大学、政府施設では、DSLを利用することによって、低コストで、バンド幅や最新のサービスを提供できる。日本でも大学がDSLの導入に積極的ということだが、キャンパス内外で、学生や教授陣によるインターネット、LANアクセス、さらには遠隔教育に利用できる。また、当分、インフラを銅線に頼らなければならないアジアでのDSL利用は、将来、アメリカでの利用を超えるとも見られている。

有元美津世 Copyright GlobalLINK
(社)科学技術と経済の会 『技術と経済』9月号掲載


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